花嫁と咎人
結局、病の件や開国の要請はほぼ進展のないまま平行線の議論が続き、会議の続きは後日に持ち越しとなった。
部屋を出て行く上流貴族達を見つめ、小さく息を吐く。
…だが、ラザレスは笑みを浮かべたまま、まだ部屋に残っていて。
「…会議は終わりました。…どうぞ退室を。」
力なく私が言うと、ラザレスも口を開く。
「陛下のお考えに賛同しない訳ではないが、世継ぎがいないとなれば国の混乱は増すばかりですぞ。
私の愚息など、いかがかな。拙宅ながら権力も地位も、貴女に唯一釣り合う一族かと。」
…まだ言うつもりなのね。
―呆れた。
「…何度言えば分かるのですか、シュヴァンネンベルク公。婚儀は不要です。相手が貴方の息子であろうと私の意思は変わらない。」
「………。」
「余所事を考えるのは 暇があるのなら、どうぞその暇をもっと他の事に使って頂きたいものです。」
嫌味を嫌味で返すなり、ラザレスは不愉快そうに金色の瞳を細める。
「強がっていられるのも今の内だ。…貴女はいずれ何もかも、失う。」
そう吐き捨て、靴底をやたらと大きく鳴らし、ラザレスは部屋を出て行った。
最後まで気を抜くことなく彼の背中を見送ったあと、私は倒れこむように豪華な椅子にもたれかかる。
…まるで悪夢。
ラザレスの言葉が頭の中を巡る。
「…箱入り、姫様…ですって。」
自分で言った途端にとても悔しくなった。
そんな事、分かっていたのに。
でも…面と向かって言われるのが、こんなにも辛いなんて。
惨めな自分を自嘲し、窓の外、暗くなった空を見つめる。
すると。
「…姫様、」
不意に私を呼ぶ声がして…すぐにそれがエルバートのものだと気づいた。