蜜蜂
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「逃げたの、千明と関わらないように。
自分が傷つくのが怖くて逃げたんだよ。」


「…杏花、こっち向いて」


彼女はうつ向いたまま、頭を横にブンブンと振る。
俺は彼女の両頬に手を添え、顔を上げるよう促した。


「やっ、だ…」


「杏花」


微かな抵抗を見せる彼女をもう一度呼んだ。
彼女は俺の手に自分の手を添え、引き剥がそうとしてくる。


「っ、杏花」


彼女の手をふりきって顔を上げさせた。
うつ向いていた彼女の表情が目に入る。



「―っ、嘘よぉ」



彼女は瞳にいっぱい涙を溜めて、溢れさせないように、必死に堪えていた。



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