Happy birthday

5―2

 
 オルゴールから流れるのは、美しく、そしてどこか物悲しい旋律。

「これ……、ショパンの『別れの曲』ね……」

 覚えている。

 美琴がピアノコンクールで優勝したときの曲だった。

 でも、別れの曲だなんて……

 ちくしょう、縁起でもないこと言いやがって。

 とにかく、手紙を読まなければ。


      †††††


 浩介へ。

 キミがこの手紙を読んでくれる事を信じて、今のわたしの想いを記して置くことにします。

 わたしは正直者だから、キミにもいつも言いたい事を言ってきたし、嘘もついた事はなかったけど。

 ごめんなさい。

 たったひとつだけ、キミに嘘をついていた事があります。

 こないだ盲腸で入院したって、言ったよね?

 あれ、嘘だったんだ。

 本当は、白血病。

 言ってなかったけど、中学の時もそれで入院した事があって、治療したんだけど。

 こないだ、また再発しちゃって。

 で、言われちゃったんだその時。

 あと数ヶ月の命です。

 ってね、まるでドラマみたいでしょ?

 自分が悲劇のヒロインになるなんて、思いもしなかったなあ。 
 似合わないよね?

 キミはわたしがなんで自殺しちゃったんだろう、って思ってるだろうけど。

 わたしは最後の瞬間まで、幸せでいたかったの。

 キミに愛される喜びを噛みしめながら、逝きたかった。

 もし、わたしが白血病だって事をキミが知って、それでキミが悩んだり苦しんだりするのを見たくなかったの。

 ただ、いつものように明るくて、笑っている、そんなふたりのままでいたかった。

 だから、自分からお別れする事にしました。

 わがままで、ごめんね。

 本当はもっと、長生きしたかった。

 ふたりで、生きたかった。

 でも、運命なら受け入れなきゃいけない。

 これも、ドラマとかでよくある言い回しだけど、でも言うね。

 キミといっしょに過ごした時間は一年にも満たなかったけど、それでも今までのわたしの人生の中でいちばん幸せな時間でした。

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