Happy birthday
以下、喜多原夕果のカウンセリングノートより抜粋
私の知人のいまは亡き友人のひとりに、自殺した少女がいた。
彼女は白血病に侵されていて、自殺した当時、既に余命いくばくもない状況だったことがわかっている。
なぜ、彼女が自[おの]ずから死を選んだのか、それは当の本人でないとわからない事である。
だが、私はこう推測する。彼女は遺書とも取れる書き置きを母親に遺していて、そこには、こう書かれてある。自分が白血病だったことを当時交際していた彼氏――私の知人でもある――に、言わないで欲しい、もし10年間欠かさず自分の墓参りに訪れたら、その時は改めて、自分が書き残した手紙を彼氏に渡してほしい。
彼女のその行動の経緯には、どこか幼稚めいた印象を抱かせる。生前の彼女は占いが好きだったようだ。そこから私が推測するに、死に至るまでの一連の行動は彼女にとって、一種のまじないのような物だったのではないか。そう、幼い子供が願いを込めるおまじない。
自分の事を永遠に忘れないで欲しいという願いを込めた、おまじない。
そして、そのおまじないはおそらく成功している。
彼、南野浩介の心は彼女、岸田美琴に永遠に捕らわれたまま。
私は、それが少し悔しかった。
―了―