愛してるさえ、下手だった
けれども、そんな幸せは形になる前に消え去ってしまった。
いつも一緒に帰っていた俺たちは、その日も一緒に帰っていた。
有芽の講義が長引いていて、寒い中、白い息を吐きながら待っていたことをよく覚えている。
「旭っ、お待たせ」
ふわりと軽く風に揺れる髪を見つめながら、有芽の手を握って先導するように先を歩く。
しばらく歩いた所で、不意に有芽が足を止めた。
「有芽?」
「ちょっと待って、忘れ物したかも…」
あの時俺がその手を離していなければ、何か変わっていたのだろうか。
「やっぱり忘れた…。取ってくるね」
「あ、おい」
俺に背を向けて走って行く背中を止めようとした、一瞬のことだった。