夜色オオカミ
橙伽さんの運転する車は無言のあたし達を乗せて真神に帰ってきた。
橙伽さんが丁寧にドアを開けてくれて、あたしが車をおりた時――
――――十夜がその異変に気がついた。
「…………っ。」
十夜は険しい顔で忙しなく辺りを見回した。
黒く輝く夜色の瞳がきつくすがめられている。
「…若様……!」
橙伽さんも警戒するように注意深く辺りを見回してる。
そんな二人の様子にあたしの胸も嫌な予感でざわつき始める。
「………十……」
堪らず十夜の名前を呼びかけた――――その時
「………出てきやがれ………。
――――紫月……!!」
「…………!!?」
――――それと同時に風向きが変わった。
風はこちらに向かって………ふわり……鉄の香りを運ぶ………。
「…ぅ……っ!!」
グッと喉の奥から込み上げてくる感覚に、堪らず口を手で覆った。
――――脳裏には、血にまみれたあの日の光景が蘇る。
そして
風上にある屋敷の影から……
紫色の狼が、
ぐったりとした狼の首に食らいついたまま姿を現し
――――こちらを、見ていた。