夜色オオカミ
「運命の花嫁は…
ある一定の期間だけ…《直感の力を宿す》ことがある。」
「え……?」
「…読み漁った文献に、たまたま書いてあったんだ。
強き力を持つ人狼の花嫁に限り、極…稀に。
《ある条件》の元に、直感を…“宿す”。」
強い眼差しに圧される。
石のように固まって…彼を見上げる戸惑ったままのあたし…。
紫月さんが、そんなあたしに近づいて…
その長い手が伸ばされる。
「……!」
その手は
あたしのお腹に触れる直前に、止まった。
彼は…微かに……微笑んだ。
「子孫などと暢気なことを言ってもらっては困るんだ。
私は、早く心花に逢いたい……。
君には、心花の――」
「紫…月さ……!?」
最後の言葉を聞いた瞬間
紫月さんの姿が、紫色の大きな狼に変わった。
「………。」
「紫月さ…ん…?」
深い深い…海の底のような紫色の瞳があたしを僅かに見つめ――
「紫月さん……!!?」
大きな口を開き
狼の赤黒い牙が
横たわる
――――十夜の首に埋まった。