夜色オオカミ
「しょうがねぇか…。
ま、どっちでもいいけど。
…元気に生まれてこいよ…?……《心花》。」
優しい声音で愛しげに、十夜の手がお腹を包む。
あたしはその手に自分の手を重ねた。
「名前……考えなきゃね。
十夜がつけてよ?
……ね?パパ。」
「~~~!!……やべぇなぁ……。早く逢いてぇ……。」
溜め息をつきながら頬を緩める十夜は間違いなく子煩悩に違いない。
「…見守っててくれよ…。」
…十夜が墓石にそっと呟く。
寄り添いながら最後に刻まれた名前を見つめた。
三つ目の名前は…《咲黒》。
抹消されていた彼の名前が……刻まれた。
もうこんな悲しい出来事は…きっと、起こらない。
教訓も込め、彼の存在をゆっくりとだけど…人狼達が受け入れた。
この事によって、真神の中もゆっくりと変わりつつある。
自分達のテリトリー以外出歩くことのなかった花嫁達が、ちらほらと顔を見せてくれるようにもなってきて…
中でも、古い考えを捨てきれない年配の花嫁達がいるなか…率先して現れてくれたのが、…橙伽さんの花嫁さん。
顔を合わせて、色々な話をして…仲良くなることが出来た。
橙伽さんによく似合ってる、しっとりとした穏やかな美人さんで…今では一人っ子だったあたしのお姉さんのような存在だ。
…そうやって全てをありのままに受け入れ始めた真神一族…
十夜も、とても嬉しそうにしてた。
そして、新しく刻まれた名前のもっと上には…《白百合》《雛菊》の文字…。
みんなみんな…きっと見守ってくれる。