楽園の炎
「隊長殿。これは、どういうことだ?」

炎駒が尋ねると、隊長は厳つい顔に、多少の困惑を浮かべて言った。

「申し訳ございませぬ。我々も、いささか解せぬ思いはあるのですが、葵王様直々のご命令。逆らうわけには、いきませぬ。朱夏様は、どうぞ宝瓶宮から出られぬよう、お願い致します」

「ちょっと待って! 何なの? 何であたしが監禁されるの!」

部屋から飛び出して、食って掛かる朱夏に、隊長は済まなそうに、申し訳ありません、と繰り返す。
そんな二人の後ろから、一人の兵士が進み出た。

「炎駒様。申し訳ありませぬが、明日までわたくしが、お側につかせていただきます」

「・・・・・・朱夏は監禁で、私には見張りがつくわけか」

呟いた炎駒に、隊長も兵士も、やはりすみません、としか返せない。
炎駒や朱夏以外には、何が起こっているのか、わからないのだ。

恐らく隊長やこの宮を固めている兵士たちは、裁判に当たって、朱夏を守るためだとでも、言われているのだろう。
明日裁かれる人間に、攫われそうになったのだ。
その身内である炎駒にも守りを、とでも言えば、若干不自然ではあるが、別段おかしいことではない。

「わかった。さがれ」

ため息と共に言った炎駒に、隊長と兵士は一礼して、扉の向こうに去った。
出て行くときに開いた扉から、ちらりと見えた宝瓶宮の前の回廊には、何人かの兵士が見えた。
入り口は、固められているようだ。

「・・・・・・万事休す、か・・・・・・」

炎駒が、椅子にどさりと身体を沈めて呟いた。
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