楽園の炎
「ちょ、ちょっと・・・・・・。い、医師を・・・・・・」

ここ何日かの不吉な思いがぶり返し、慌てる朱夏に、皇太子が歩み寄り、倒れたままの夕星を覗き込む。

「・・・・・・ああ、大丈夫だ。ろくに体力も戻っていないくせに、格好つけてこんなことをするからだ。葵王殿も、気にすることはないぞ。これでわだかまり無く、裁可は下りたということで、よろしいな」

そう言って、扉の傍に控えていたククルカンの兵士に夕星を任せると、皇太子はじっと朱夏を見つめた。
生まれながらの大国の皇太子に相応しい、誰よりも強い威厳を感じ、朱夏は知らず小さくなる。
皇太子は朱夏の胸に下がった短剣に、視線を落とした。

「そなたは・・・・・・確か、朱夏と言ったな」

「アルファルド王が一の側近・炎駒の娘、朱夏と申します」

その場に平伏し、朱夏は名乗った。

「そなたのお陰で、夕星も死に急ぐという馬鹿なことを、しでかさなくて済んだ。礼を言う」

弾かれたように顔を上げた朱夏に、皇太子は柔らかい瞳を向けた。

「・・・・・・夕星は、その守り刀を、そなたに与えたのだな」

朱夏が口を開く前に、皇太子は立ち上がり、皆に向かって労いの言葉をかけた。

「さぁ、ではこれにて今回の裁判は終わりだ。皆、ご苦労であった。近く私の本隊も、こちらに入る。また慌ただしくなるだろうから、それまではゆっくりされるがよかろう」

退室していく重臣と言葉を交わす皇太子を、朱夏は茫然と見つめた。
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