楽園の炎
宮殿の侍女や下働きの者が、変に朱夏に気を遣う中にあって、この朱夏付きの侍女は、稀有な存在と言えた。
朱夏がアルと呼ぶこの侍女は、宮殿に他国の者が働きに入るようになってすぐに入ってきた、異国の娘だ。

初めて異国の者が入ってきた珍しさもあって、いつもならすっぽかすであろう、新しく入った召使いらの顔合わせの場にも、きちんと出た。
そこで目についたのが、アルだったのだ。

全員で五人ほどしかいない異国の新人の中でも、最も若かった。
宮殿に働きにくるのが、大抵は出産後の女性や、それなりに歳のいった男女だったので、まだ十代であろうアルは、否応なしに目立っていた。
この国の者ならともかく、何故このように若い少女が、他国から流れてきたのかも気になったし、わざわざ住み込みの仕事に就きたがるのも気になった。

そういう印象が強かったため、その後偶然宮殿の庭で会ったのをきっかけに、親しくなったのだ。

彼女はアルシャウカットといい、ずっと北のほうの出身であるらしい。
小さい頃からずっと転売されて、ここまで流れ着いたということだった。

そうこうしているうちに、朱夏に再び侍女を付ける話が出た。
再びというのは、そういう試みは、以前からあったのだ。

昔から朱夏にも世話係の侍女がたびたび付けられたのだが(あまりにやんちゃ故)、誰も長続きしないまま(これもあまりのやんちゃ故)、今まで来た。

だが今回は、朱夏の父が正式に王の側近になったこともあり、自然朱夏の、公式の場への出席も多くなる。
なのに化粧一つ満足にできないままでは困る、ということで、本格的に、いざというときは、朱夏を腕ずくで飾り立てることのできる、腕利きの侍女として、アルが選ばれたのだった。
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