楽園の炎
「いや、父上が仕官の世話をしたとしても、結果は同じだったと思いますよ。憂杏には、狭い王宮の暮らしなど、似合いません。それに、多分・・・・・・憂杏がちゃんとした王宮付きの武官なり文官なりだったら、ナスル姫様は、惹かれなかったと思います」

「う~む・・・・・・。それにしたって、せめてもっと歳の近い・・・・・・何もあのような、見るからにむさ苦しい者を選ぶことはなかろう」

やっぱりそこだよなぁ、と、朱夏も思う。
リアル美女と野獣そのものだ。

幼い頃より、周りの男性は、随分年上ばかりだったからだろうか。
一番近い夕星でも、七つ離れている。

「父上は、どう思います? ナスル姫様は、本当にすっかり、憂杏に心奪われているようですが」

「どう・・・・・・と言われても。う~む・・・・・・。人柄だけ考えれば、悪い奴でないのはわかっている。頭の良いのも知っているし、世界を駆け回るだけの豪胆さもある。本来の身分も、悪くはないし。しかし、実際の身分はただの商人だ。それに加えて、倍も歳が離れているのだぞ」

「もし、あたしが憂杏と結婚したいって言い出したら、どうします?」

「・・・・・・微妙だ」

この上なく難しい顔で、炎駒は答えた。

「しかし憂杏なら、ナスル姫様ぐらい、軽く守り通せるだろうとも思う」

ふと顔を上げて、炎駒が言った。
朱夏も頷く。

「やはり、憂杏がナスル姫様をどう思ってるかがわからないことには、これ以上は進めませんね」

ふぅ、と息をつき、朱夏はスープの器と共に、椅子に深く身体を預けた。
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