楽園の炎
「ええ。今日、そのお見合いの中止のことについても、お聞きしました。えっと、一応女同士ですから、まぁ、砕けた話で・・・・・・」

炎駒に言いながら、朱夏は父にわかるよう、ちら、と桂枝を見た。
朱夏の視線に気づき、炎駒がさりげなく桂枝とアルをさがらせる。

「お前も気づいたか」

二人になった部屋で、炎駒が呟いた。

「気づいたというか。あたしは、ナスル姫様に直接聞いたんですよ。あ、いや、初めは確かに、あたしが当てましたけど」

「私も、皇太子殿下より、事前に見合いの中止を打診されていたのだ。葵王様と王に告げる前に、相談という形でな。そのときに、どうも姫君には、他に好きな者がいるらしい、と告げられた。皇太子様の困惑っぷりで、そういう相手ができたのは、こちらに来てからなのだろうと当たりを付けた。そうなると、おのずと決まってくるだろう」

親子は顔を見合わせて、同時に頭を抱えた。
やはり、皆手放しでは喜べないようだ。

「こんなことなら、憂杏を隊にでも入れておくんだった。王宮にいる間に、無理にでも仕官させるべきだったか・・・・・・」

桂枝はずっと炎駒付きだったため、憂杏も王宮で暮らしている間は、よく炎駒について仕官のための勉強をしていた。
が、葵や朱夏が産まれると、生来の自由人気質が発揮されたのか、幼い二人(特に朱夏)を連れて、いろいろなところに出歩くようになった。
見聞を広めるのは良いことだと、炎駒も特に咎めなかったのだが、娘は無事仕官したにも関わらず、憂杏はそのまま市井の生活にハマッてしまった。
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