楽園の炎
だが。
倒れたのは、葵だった。

朱夏の足元に、折れた剣先が転がる。
あの一瞬の鈍い音は、剣が折れた音だったのだ。

そろそろと顔を上げると、稽古場の中央に立つ夕星と、その足元に倒れる葵が目に入る。
我に返り、朱夏は夕星に走り寄った。

「えっと。ど、どうしたの? 怪我はないの? あ、葵っ! 大丈夫?」

ざっと見たところ、夕星には一切の傷はないようだ。
朱夏は慌てて、倒れている葵の前に座り込んで声をかけた。
肩に手をかけると、葵が顔をしかめて上体を起こした。

「いったたたた・・・・・・」

座り込んだまま、脇の辺りに手を当てる葵に、夕星もしゃがんで葵を覗き込んだ。

「初めに殺した分の力は、剣に移したんだがな。ちょっと、加減が足りなかったか」

言いながら、夕星は葵の手を退け、肩の少し下や胸の辺りを押さえる。

「うん、大丈夫。ちょっと休めば、元に戻るさ」

反対側の腕を自分の肩に回すと、夕星は稽古場の端にあるベンチに、葵を連れて行った。

朱夏は足元に視線を落とした。
葵の、折れた剣が転がっている。

剣とはいっても稽古用なので、切れ味はない。
だが強度はそれなりだ。
それが、刃の中程で、ばっきり折られている。

確か夕星は、片手だったはずだ。
葵が打ち込もうと腕を上げた一瞬に、剣を脇の下の急所に叩き込んだのだ。
葵の剣戟も、相当な速さだ。
叩き込んだ剣をそのまま、振り下ろされた葵の剣に打ち込んだのだろう。
葵に打ち込んだときに力を加減し、その分二の剣に当たる剣同士の打ち合いに倍加したらしい。

攻撃は二段階だが、実際夕星が剣を振るったのは、一回だけだ。
片手の一撃で、ここまでの威力を発揮するとは。
驚くべき力だ。

「さすが。やはり実戦経験のある者とない者とでは、勝負になりませんな」

隊長が、ぽつりと呟いた。
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