楽園の炎
そのすぐ後、朱夏は憂杏と内宮を歩いていた。

あの夕星と葵の立ち会いの途中に来たらしいのだが、皆と同様、しばらく二人から目が離せなかったらしい。
夕星は葵と何か話し込んでしまったため、朱夏だけが憂杏と稽古場を離れたのだ。

「ああいうところを見ると、やっぱりあいつはただ者じゃないってわかるなぁ」

回廊を歩きながら、憂杏が呟く。
朱夏はちら、と横を歩く大男を見た。

「たま~にさ、ああいう、常人とは違う気を放つときが、あったんだよな。だから、まぁ、あいつがどこぞの大国の皇子だって言われても、納得できる」

「そういうもの?」

「長く旅してりゃ、いろんな奴に会うからな。大体のことは、その人の気っつぅか、感じでわかる。わからねぇと、おいそれと旅なんざ、できねぇしな。けど、あいつは感じたことのない気を持ってた。結構いろんな身分の奴と付き合ってきたが、あいつの気は、どんな奴とも違ったよ。そのわりに、その特殊な気は巧みに隠されてる。ま、そういうところも、面白かったんだがね」

頭の後ろで手を組んで、のんびりと言う。
やっぱり、憂杏は大きな男だ。
少々のことなど、屁でもないだろう。

宝瓶宮まで来ると、扉を開ける前に、朱夏は憂杏を振り返った。

「あのさ、折角だから、ナスル姫も呼んでいい?」

「ああ。ここまで来たら、無視して帰るわけにもいかんしな」
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