楽園の炎
「葵王は、予感があったってことか? ナスルの気持ちに、気づいていたのか?」

「う~ん、まぁ。何となく、皇太子殿下がやたら僕にお気を遣われて、ナスル姫とのお見合いを、僕から断って欲しいというような雰囲気を出された頃からかな。朱夏にそのことを相談したときに、ナスル姫に、他に好きな人ができたのかもって言ってたじゃない。それで、確かにそうだとしたら、向こうからは断りにくいかもなぁって。一番納得できる理由だけど、じゃあ誰なんだろうと思ったときに、なかなかいないじゃないか。朱夏の言うとおり、まさに盲点だし」

笑いながら、葵は相変わらず、さして驚くこともなく語る。

「でも、最近はよくナスル姫は憂杏といたし、憂杏といる姫は、楽しそうだったよ。何か、傍(はた)から見てても、しっくりきてた」

「そうか? 単純に見れば、葵王といるほうが、よっぽどしっくりくると思うが」

さっきは朱夏に突っ込んだものの、夕星もそれなりに失礼なことを言う。
だが朱夏は、大きく頷いた。
そんな二人に、葵は苦笑いを浮かべる。

「僕からすれば、何となく、ナスル姫が僕より憂杏を選んだのは、まぁ納得できるというか。この小さい国しか知らない僕には、大国の姫君を支えるだけの器はないと、今回のお見合いで、しみじみ感じましたよ」

「それにしたって~。見た目もそれなりに、大事じゃない? 憂杏よりも葵のほうが、よっぽど見てくれは良いのに~」

朱夏が、あっさりと納得した様子の葵に、頭を抱えて訴える。

「おや。お前はもしかして、俺を見てくれだけで選んだのか?」

立ち上がって、枝にかけてある上衣を取りながら言う夕星に、朱夏は、そ、そういうわけじゃないけど・・・・・・と、再び赤くなる。
夕星から衣を受け取って、葵が笑った。

「朱夏、なかなか面食いなんだね。良かったねぇ、夕星殿が、中身も伴う人物で」

朱夏はじろんと葵を睨んだが、すぐに口角を上げて呟いた。

「ほんとにね」
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