楽園の炎
「はて。憂杏とナスル姫様が、何か? あの者に限って、そのようなことはないと思いますが、まさか、何か失礼を?」

ここに来て、やっと狼狽えだしたアルファルド王に、皇太子はちょっと笑って軽く手を挙げた。

「いや、そういうわけではありません。それよりも、今の王のお言葉に、興味を惹かれましたが。王からしても、憂杏という商人は、信用に足る人物なのですか?」

思わぬところを突っ込まれて、アルファルド王は、きょとんとする。
が、すぐに、ええ、と頷いた。

「昔は彼も、王宮で暮らしていましたし、母親同様炎駒殿に仕えておりましたので、それなりの基本知識は身についております。葵王も幼い頃は、憂杏にいろいろ教わることも多かったのですよ。なかなか賢い者でしたし、あのまま仕官しておれば、炎駒殿の片腕ともなれただろうに、一介の商人に甘んじているのは、もったいないことですな」

ほぉ、と感心したように、皇太子は興味を示した。

「何故そのような者が、仕官しなかったのです?」

皇太子の言葉に、王は曖昧に微笑み、横の炎駒が変わって話を引き継いだ。

「彼には、王宮という籠は、小さすぎたのでしょう。位が上がれば上がるほど、行動範囲も狭くなります。細かな頭脳戦よりも、実際に行動したい人間なのでしょう」

「・・・・・・夕星のようだな。もっともこいつは、臣下の最高位でありながら、行動範囲は果てしないが」
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