楽園の炎
言いながら皇太子は、ふむ、と考え込む。
あまり悪い印象は持っていないようだ。
だが、やはり簡単には答えを出さない。

「なるほどな。人柄は、それなりに評価できるというわけだな。あとは、実際に会うのが一番なのだろうが」

う、とアルファルド王とアシェン以外の全員が固まる。
避けては通れない道ではあるが、さすがに皆、あの憂杏を正式にナスル姫の相手として、皇太子に紹介する勇気はない。
夕星も、微妙な顔になっている。

「ところで、憂杏が何か?」

今更なアルファルド王の質問に、朱夏はずっこけそうになった。
だが考えてみれば、王からしたら、初耳のことだ。
何のことやら、わかるまい。

現に、アシェンもきょとんとしている。
そこで初めて気づいたように、皇太子が、ああ、と顔を上げた。

「いえね、どうやら、ナスルが・・・・・・。いや、う~む。皇家の恥かもしれませぬが、いや、葵王殿の手前、ちょっと・・・・・・」

視線を彷徨わせながら、皇太子らしからぬ態度で言いよどむ兄に、夕星が助け船を出す。

「兄上、ご安心を。葵王殿は、すでに気づいておられましたよ」

驚きに見開かれた瞳を葵に向け、皇太子は束の間固まっていたが、すぐに一つ息をついて、身体の力を抜いた。
< 291 / 811 >

この作品をシェア

pagetop