楽園の炎
「無用心ですねぇ。それでも、姫に付き従って来た者は、私たちから見たら、そう少ない人数でもなかったようですが、姫は不安ではなかったのですか?」

葵の言うように、王宮の辺りがなんとなく騒がしかったのは、ククルカンからの人が増えたためだ。
結構な異国の人間が、町にも入っている。

「一緒に来た大部分は商人ですし、旅の途中で合流した者もいるので、正直少しだけ不安でしたけど」

ククルカンの首都からアルファルドまでは、かなりの行程だ。
途中までは海路で来られるが、アルファルドの周りは砂漠が広がっているので、最後は陸路での砂漠越えが待っている。

慣れない者の砂漠越えは自殺行為だし、ある程度慣れた者でも、単独での砂漠越えは危険が伴うため、できるだけ隊を組んで越えるのが、賢いやりかただ。
砂漠の入り口や途中のオアシスには、同じ方向へ移動する者を待つ商人などが、沢山いるものなのだ。

「でも、面白くもありましたし、それに、葵王様にも、お会いしてみたかったので」

恥じらうように、頬を染めて言うナスル姫は、しばらく肩にかけた衣を弄んでいたが、やがて話を逸らすように、顔を上げた。

「あの、ここにいる間、是非仲良くしてくださいね」

「ええ、もちろんです」

先程の、ナスル姫の言葉を深く考えることなく、葵は柔らかく微笑んだ。
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