楽園の炎
「ユウ! 売れ行きはどうだ?」

薄暗い天幕の中は、よく見えない。
ただでさえ薄暗いのに、今まで日差しのきつい中を歩いていたので、余計に見えないのだ。

「憂杏か。売れ行きも何も、こう暑かったんじゃ、外に出る気にもならねぇよ」

暗い中から、低い声が返ってくる。
その声に、朱夏は、おや、と思った。

「砂漠を簡単に越えたくせに、これしきの暑さでくたばるなんて、どうかしてるぜ」

「心構えが違うんだよ。日常がこんな暑さなんて、詐欺だぜ・・・・・・」

天幕から、巻物でばさばさと扇ぎながら、男が出てくる。
浅黒い肌に、半端な長さの、漆黒の髪。

「あれっ」

男も朱夏に気づいたようだ。
すぐに無邪気に、にこ、と笑いかけた。

「やあ。昨日はどうも、ごちそうさま」

「どういたしまして・・・・・・て、別にあたしは、何もしてないけど。あなた、商人だったの?」

言葉を交わす二人を、怪訝な表情で見る憂杏に気づき、朱夏は昨日森で会ったことを話した。

「森の泉まで、入り込んだのか。無謀にも、程があるぞ」

呆れたように言う憂杏に、男は特に何とも思ってないように、首を傾げた。
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