楽園の炎
「何、息子の門出のようで、嬉しいものだ。あの憂杏が、皇族の姫君に見初められたんだからな」

「もったいないお言葉ですわ。ご息女の朱夏様も、同じく皇族の皇子に見初められておりますし、炎駒様には、ほんに喜ばしいことですわね」

桂枝が、深々と頭を下げた。
その言葉に、炎駒は少し微妙な顔になる。

「朱夏、こちらにおいで」

炎駒に呼ばれ、朱夏は父について、衣装部屋に入った。
炎駒は一番奥の棚の中から、一枚の衣装を取り出した。
淡い藤色の、薄い布地を合わせた、綺麗なリンズだ。

「うわぁ、綺麗なリンズですね。軽いし、凝ってないのに凄く綺麗。こんなリンズも、あるんですね」

「母上のリンズだ」

え、と朱夏は、炎駒の顔を見た。

「着てごらん」

そう言って、衣装部屋から出て行く。
朱夏は渡されたリンズを眺めたまま、しばらくぽかんとしていたが、とりあえず、言われたとおり藤色のリンズを身につけてみた。

見た目は普通の女子が着ているような、丈の長いリンズだが、一番外側の布は薄く軽いので、行動が制限されることはない。

「ち、父上~・・・・・・」

衣装部屋から顔を出して、朱夏は炎駒を呼んだ。
普通のリンズよりも随分動きやすいとはいえ、形は今まで着たこともないような、女性らしいものだ。
照れくさくて、なかなか人前に出られない。

「どうした? まさか、着方がわからないとか言うんじゃないだろうな?」

「着られたんですけど、あの、ちょっと」

朱夏はぶんぶんと、手招きした。
炎駒は訝しげな顔をしながらも、衣装部屋に入ってくる。
そして、朱夏の姿に息を呑んだ。
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