楽園の炎
「お姫さん、そろそろ飯にしようか」

「あ、ええ。その前に、これだけ干してしまわないと」

いそいそと洗濯物を入れた桶を抱えて歩いてきたナスル姫から、憂杏は自然な動作で桶を受け取る。

「全く憂杏の奴、すっかりラブラブじゃないか」

「あたしんところの滋養スープを飲んで、早く可愛い子供でも、こさえるんだね」

からからと笑いあう女性らに、憂杏は微妙な顔をする。
そして、ふと前方に目をやった。

「ん? 兵士がいるな。何かあったのかな?」

片手で桶を抱え、もう片方の手を翳して、前方の人だかりを眺める。

「あ、兄上がいらしたみたい。ここに来るのかしら? ね、わたくしの身分、あんまりバラしたくないわよね。どうしよう」

憂杏に引っ付いて、ナスル姫は小声で言った。
ああ、なるほどね、と呟いた後、憂杏は何でもないように歩き出す。

「大丈夫だよ。お姫さんのことを、ちゃんと考えてくださってるかただから、おいそれとお姫さんの居場所がわかるようなことは、せんだろう。何とか不自然じゃないようにするだろうさ」

「そっか。そうね・・・・・・あれ?」

井戸はさほど離れたところではないので、そうこうしているうちに着いてしまった憂杏の天幕の前で、ナスル姫は足を止めた。
前から走ってくるのは、朱夏ではないか。
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