楽園の炎
葵は朱夏が口を開く前に、苦笑いを浮かべると、ちょいと下を指差して、窓の奥に姿を消した。

---一緒にいたんだ---

まぁ当然か、と思っていると、ぱたぱたという軽い足音と共に、ナスル姫が駆けてきた。
さっきの窓から階段を下りてここまでは、結構な距離だ。
それを、これだけの時間で走ってきたのなら、相当速い。

「足が、お速いのですね」

前屈みになり、息を切らすナスル姫に、朱夏は水の入った器を差し出した。
洗ってはいるが、その辺に重ねてあった器など嫌かも、と思ったが、姫はあっさりと器を受け取ると、ぺたんとその場に座り込んで、ごくごくと水を飲み干した。

「ああ、久しぶりに走ったら、疲れちゃった。美味しいわぁ、ありがとう」

にこっと笑顔で言うナスル姫に、兵士たちは落ち着きなく、ざわざわとしている。
このように、見るからに高貴な人と言葉を交わすことなど、そうない者ばかりなのだ。
だがナスル姫は、そんな周囲の態度など気にもせず、珍しそうに辺りをきょろきょろと見回している。

「あの、姫様。お付きの者は? あお・・・・・・葵王が、ご一緒だったのでは?」

朱夏が問うと、姫はうん、と頷きながら、自分が走ってきたほうを見た。
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