楽園の炎
「葵王様と、王宮内をお散歩していたの。そしたら、朱夏が見えて。さすが、葵王様のお付き武官だけあるわよね。とっても強かったわぁ。ああ、やっぱり殿方も女子も、強くないといけないわよね」

「朱夏様の強さは、女性には必要ないものですよ」

姫の意見に、先程朱夏に倒された兵士が、口を挟む。
朱夏がじろりと兵士を睨み、皆がどっと笑い出す。

「そうかしら? そういえば、さっきまで一緒にいた侍女も、そんなことを言ってたわ。でもその侍女も、何だか息子さんを、血相変えて追いかけてたけど」

上気した頬でくすくすと笑うナスル姫は、本当に可愛らしい。
朱夏がナスル姫に見惚れていると、ようやく葵が稽古場に入ってきた。

皆、一斉に膝を付き、頭を垂れる。
朱夏も、皆と同じように、臣下の礼を取った。

「皆、気にしないで。稽古を続けてくれ」

葵が言うと、全員素直に稽古を始める。
葵は朱夏に、柔らかく微笑みかけた。

「姫は随分と、足が速いのですね。驚きましたよ。朱夏から許可を得るなり、あっという間に駆けだすんですから。先に走り出した桂枝を、軽く追い抜いて行きましたしね」

姫に手を差し出しながら言う葵は、朱夏には何となく、知らない人物に思えた。

何か嫌だな、と思いつつ、葵の手を取って立ち上がるナスル姫と、そのナスル姫をいかにも大切そうに扱う葵を眺めていた朱夏は、ふと先程の葵の言葉を思い出した。
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