楽園の炎
「葵。桂枝が、どうしたの?」

「ああ。いやぁ、憂杏がさ、いつもの調子で王宮内を歩いていたから、桂枝が怒っちゃってさ。まぁ、姫の手前もあるしね」

笑いながら葵が言っていると、稽古場に、その桂枝が走り込んできた。
相当怒っているのか、それとも走りすぎたのか、顔は真っ赤で、息も切れ切れだ。

「ぎ、葵王様・・・・・・。あの、ゆ、憂杏・・・・・・は。しゅ、朱夏さ・・・・・・」

ぜぃぜぃと息を切らす桂枝を慌てて支えながら、朱夏はとりあえず、ふらふらな桂枝を、その場に座らせた。
そのまま桂枝は、葵とナスル姫に頭を下げる。

「本当に・・・・・・お見苦しいところを・・・・・・お見せして・・・・・・も、申し訳ありませぬ・・・・・・」

「あらあら。確かにああいうかたがお身内だと、気苦労が絶えませんわね。わかりますわぁ。でも、ご安心なさって。ご子息は、すぐに見つかりましてよ」

意外なことに、ナスル姫が笑みを湛えたまま、桂枝を覗き込んだ。
そして、ひょいと顔を上げ、稽古場の中をざっと見渡すと、兵士たちに向かって、ぱんぱんと手を叩いた。

「あの辺りの植え込みを、探してごらんなさい。もしかしたら、木の上かもしれないけど、大柄なかただったから、多分下だわ」

ナスル姫の指示に、兵士たちが植え込みの一角に走る。
すると、兵士らが植え込みに飛び込む前に、がさりと憂杏が立ち上がった。
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