楽園の炎
「だって、行動範囲が凄く限られてるんだもの。初めは見るものがいっぱいで、面白いと思ったけどさ。一通り見ちゃうと、後は何もすることないんだもの」

「そうね。あんまり細かい作業をしたら、アシェンみたいに酔っちゃうしね」

「確かに朱夏は、こんな長時間、じっとしてることは、なかったからなぁ。馬も、置いてきたんだろ」

憂杏の言葉に、朱夏は、うん、と頷いた。

朱夏の軍馬は、コアトルの知事に預けてきた。
ククルカン兵の馬は、港でその都度替えている。
海路で馬を運ぶことは、通常ならないのだが、不可能なわけではない。
王専用の馬などは、ずっと同じものであることがほとんどだ。

だがそれは、それなりに船に慣れた馬であることと、専属の世話人がいてこそ。
朱夏の馬は、鍛え上げられた軍馬ではあるが、船に乗せたことなどない。

朱夏にとっては大事な馬のため、夕星がコアトル知事に頼んだのだ。

「気候も全然違うらしいし。心配だからね」

「そうね。それにきっと、朱夏はすぐにコアトルに戻れるわよ。お兄様は、もう叔父上の跡を継ぐ気でいらっしゃるし」

そのつもりで、馬をコアトルに置いてきたのだ。

「まぁ、万が一無理でも、そのときはそのときよ」

マンゴーを食べながら、朱夏は肩にかけていた毛布を引き上げた。
随分風が冷たくなったような気がする。
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