楽園の炎
「ククルカンの城に入ったら、侍女や召使いがわらわらいるし、それこそ俺の乳母とかがいるだろ。乳母はもっぱらナスル付きだが、俺の嫁となれば、張り切って朱夏の面倒も見るはずだ。あの乳母は怖いからな。婚儀の前に朱夏の部屋に忍び込もうものなら、容赦なく叩き出されるぜ」

ラーダも十分怖いけどな、と呟き、夕星は朱夏を抱きしめる。
朱夏はちょっと、桂枝を思い出した。

「乳母って、そういうものよね。親同然だから、向こうも遠慮無く叱ってくるし、こっちは頭が上がらない」

朱夏も桂枝には、散々怒られた。
夕星の行動を見ていると、そりゃあさぞかし乳母も苦労したことだろうと思っていたが。

「でも、俺はそんなに激怒されたことはないぜ」

意外なことを、夕星は言った。

「嘘。ユウだって、あたしと変わらないぐらい、じゃじゃ馬じゃない。ナスル様だって、そう言ってたわよ」

「それは最近だろ。昔は俺、良い子だったんだから」

ええええ~? と、思いきり疑いの目を向ける朱夏だったが、言われてみればコアトルの侍女らも、夕星のことはべた褒めだった。

「・・・・・・大人になってから型破りになるのも、どうかと思うけどね」

「型破りではないよ。見聞を広げるためさ」

「ものは言いようよねぇ」

他愛ない話をしているうちに、緊張がほぐれていく。
くすくすと笑い、朱夏は夕星の胸に、顔を埋めた。
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