楽園の炎
「葵王様は、朱夏様に、スタールビーの首飾りを贈られたじゃありませんか。あれは、葵王様のお気持ちでしょう?」

朱夏は相変わらず、スープの器を持った手を掲げたまま、視線を壁際の引き出しにやった。
鍵付きのその引き出しには、葵からもらったスタールビーの首飾りが入っている。
それだけは、さすがに他の宝物(がらくたともいう)たちと一緒に、宝石箱に放り込むことはせず、きちんと上等の布に包んで、鍵のついた引き出しにしまっているのだ。

「あれは・・・・・・あたしの階級が上がったから、そのお祝いでしょ? 今までと違って、厳しかったもの」

「・・・・・・葵王様も、報われませんわね。たかが試験の合格祝いに、あれほど高価な首飾りを贈ったりするものですか。ルビーは、純愛という意味ですわよ。そもそも、ああいった宝石をいただいた時点で、わかりそうなものですけど」

そういえばこの前、あの首飾りをつけてナスル姫の歓迎パーティーに出席したとき、いつもあの首飾りが似合うよう、女性らしい格好をして欲しいと言われたような。
あれは、そういう格好で、葵の傍にいて欲しいという意味だったのか。

「そ、そんなこと、葵に言われたことないもの。ちゃんと言ってくれないと、わからないよ。それに、どっちにしろ、もう葵には、ナスル姫が・・・・・・」

下を向き、朱夏は混乱したように頭を振った。
両手で包んだ器が膝の上で揺れ、スープが跳ねて、少しだけ衣装を汚す。

「・・・・・・どうなさるのでしょうね、葵王様は」

呟き、アルはそっと、朱夏の衣装の汚れた部分を拭ってやった。
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