楽園の炎
「当たり前でしょう。そもそも姫君ともあろう者が、そのように大きな剣を持ち歩くこと自体がおかしいのですから」

「じゃさ、アルが持っててよ。部屋に入る前に、アルに渡すからさ」

「わたくしがお迎えに上がるとは、限りませんよ」

「ああ、そっか。アシェン様に誘われるかもしれないしね」

「何言ってるんです」

軽く思いつきを口にしてから、朱夏はそういえば、とアルを見上げた。

「ねぇ、アシェン様は? 考えてみれば、お城に入ってから、見かけてないわ」

特に表情を変えることなく、アルは首を傾げた。

「さあ? わたくしも、お見かけしておりませんわ。皇太子様付きですから、皇太子様を訪ねられたら、アシェン様にもお会いできるのでは?」

「アルも会ってないんだ」

なぁんだ、と、朱夏は前を向く。

周りの環境ががらっと変わったお陰で、時の流れが上手く掴めないが、よく考えれば、まだククルカンに着いてから、二、三日しか経っていないのだ。
まだまだ今回の帰国の事後処理もあるだろうし、何と言っても彼が仕えているのは、この大帝国の皇太子だ。
それでなくても、忙しい身だろう。

「さぁ、余計なこと考えてないで、行きますよ」

アルが再び朱夏を急き立て、レダと共に部屋を飛び出した。
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