楽園の炎
ちょっとショックを受けている朱夏の頭を、セドナは優しく撫でた。

「皇家の皇子は、それなりの歳になれば、教育の一環として、そういうことも教わるのです。きちんとした妃相手に、粗相があってはいけませんしね。格式の高い廓の、全て心得た女郎が相手をします。廓側も女郎も、きちんとそういった教育がなされておりますので、そのことで正式に皇子に嫁ぐ姫君が気を揉むことはないのですよ」

はぁ、とアルも朱夏も、感心したように気の抜けた返事をする。

「やっぱり同じ王族でも、全然違うねぇ。それとも、あたしが知らなかっただけで、葵もそういうところに行ってたのかしら。そういや、普通に知ってるみたいだったし」

「あのね、普通は、知ってるもんなんです。朱夏様ぐらいですよ、全く手順を知らないのは」

ククルカンの制度については、アルも感心したようだが、朱夏の呟きには冷たい突っ込みを入れる。
今度はセドナが、あらまぁ、と声を上げた。

「やはり朱夏姫様は、その、何もお知りでないのですか。あらあらあら」

困りましたねぇ、と言うわりに、顔は笑っている。

「ま、姫君はそのほうが、良いのではないでしょうか。大丈夫ですよ、あれでも夕星様は、それなりに慣れてらっしゃいますから。本気で好きになった姫君を相手にするのは、おそらく初めてでしょうが。あら、もしかしたら、緊張でしくじるかもしれませんわね」

けらけらと笑うセドナを、アルは少し意外そうに見た。

「セドナ様も、そのようなことを仰るのですね。ふふっ。とりあえず朱夏様、そういうことなんで、ご安心ください」

「今までの話で、どう安心しろっていうのよ」

笑いあうアルとセドナに、赤い顔のまま、朱夏はきゃんきゃんと怒鳴った。
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