楽園の炎
炎駒は難しい顔をして黙り込んでいる。
ややあってから、目の前の朱夏を見た。

「本当に、大丈夫なのか?」

炎駒は、以前朱夏が葵に襲われたときのことが引っかかっているのだ。

あのときのように、朱夏が怯えてしまったら。
二度までもあのような目に遭ったら、最早立ち直れないのではないか。

心配そうに言う炎駒に、朱夏は元気よく頷いた。

「大丈夫。結構ね、あたしも仕返ししてやったのよ。アリンダ皇子、鼻の骨折ったんだって」

ぶんぶんと腕を回してみせる朱夏に、炎駒は少し驚いた。
が、なおも心配そうな表情は崩さない。

「しかし、前の葵王様のこともあるし・・・・・・。無理してないか?」

言いにくそうに言う炎駒だが、意外に朱夏は、きょとんと父を見る。

「葵? ・・・・・・あ、ああ~。そんなこともあったわね」

呑気に言う朱夏に、炎駒は怪訝な顔になった。

「違うわよ。あのときは、葵に襲われたっていうことよりも、ユウが捕まったってことのショックのほうが大きかったの。あんまり記憶はないんだけど、すっごく泣いたのは覚えてる。うん、あのときは、そう、ユウのことしか頭になかったなぁ」

えへへ、と照れ笑いをする朱夏に、炎駒はやっと優しい目を向けた。
ふ、と身体の力を抜くように、背もたれに身体を預けると、桂枝が淹れたお茶に口を付けた。

「それなら良かった。夕星様、まだまだ子供っぽい娘ではありますが、よろしくお願いしますぞ」

「ええ。必ず幸せにします」

背筋を伸ばし、真っ直ぐに炎駒の目を見て誓う夕星を、朱夏は眩しい思いで見つめた。
< 736 / 811 >

この作品をシェア

pagetop