楽園の炎
「ククルカンでの生活はどうだ? 姫君のような生活に飽き飽きしているかと思っていたが、お前の格好を見る限り、そんな大人しくはしていないようだな」

用意された炎駒の部屋で、大きなソファに座りながら、炎駒が言った。
同じように、前のソファに座りながら、朱夏は、えへへ、と笑う。

「楽しいわよ。ユウも、好きなことさせてくれるし。最近はね、近衛隊の人たちと一緒にいるの。訓練にも参加させてもらってるんだけど、皆すっごく強いのよ。葵なんて、いつもへろへろになってるわ」

にこにこと笑う朱夏に、炎駒は眼を細める。

そのとき、扉が軽く叩かれた。
同じ部屋にいた桂枝が扉を開け、すぐに戻ってくる。

「炎駒様、夕星様です」

迎えに行った近衛隊らと、一旦兵舎のほうへ行っていた夕星が訪ねてきたらしい。

「失礼します」

夕星は部屋に入ると、真っ直ぐに炎駒に近づき、彼を迎えるべく立ち上がった炎駒の前に、膝を付いて深く頭を下げた。

「炎駒殿、申し訳ない。あれだけ朱夏姫を守ると豪語したにも関わらず、彼女に傷を負わすようなことになったこと、深くお詫び致します」

丁重に詫びる夕星に面食らいながらも、炎駒は自らもしゃがんで、夕星の肩に手を置いた。

「お気になさらず・・・・・・とは、さすがに申せませぬが、夕星様のお心、よくわかりました。どうぞ、お顔をお上げください」

夕星は再び深く頭を下げると、顔を上げた。
炎駒に促され、朱夏の横に腰掛ける。

「炎駒殿の書簡は、父上に回しております。元々今回のことで、重臣らからはもちろん、皇后様からも奴の処罰を希望する声が上がっておりますので、父親たる炎駒殿の怒りももっともでしょう」
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