楽園の炎
何か言いたげな朱夏から視線を切り、葵は後ろ手に縛られたユウを見た。
今まで見たこともないような、冷たい目でユウを一瞥し、葵は口を開く。

「異国の者だな。今回のことは、私の暗殺疑惑という、大きな事件だ。裁可は、ククルカン皇帝より下ることになろう。幸い、皇太子殿下が近くこちらに来られるそうだ」

「何だと?!」

縄をかけられても、特に取り乱すことなく落ち着いていたユウが、突然声を荒げた。
皆、驚いてユウを見る。

朱夏はユウを見た瞬間、息を呑んだ。
皆は、王族である葵への、ユウのぞんざいな物言いに驚いただけかもしれないが、朱夏はそのときの、ユウのまとう空気に驚いた。

葵をも凌ぐほどの、威厳。
葵に向けられた鋭い瞳に、圧倒的な力を感じた。

葵も、一瞬目を見張った。
が、すぐに兵士に、ユウを地下牢に連行するよう命じる。
朱夏は慌ててユウに駆け寄ろうとしたが、周りはびっしりと兵士に固められ、声をかけることもできない。

「さぁ、朱夏様。あっ、お怪我をなさっているじゃありませんか」

朱夏を促した兵士が、手に巻かれた布に気づいて手当ての者を呼ぼうとするのを、朱夏は乱暴に振り払った。
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