楽園の炎
「あたしは大丈夫よ!」

その勢いのまま、朱夏は葵に詰め寄る。

「葵! 何で? どういうつもりなの!」

胸倉を掴む勢いで迫る朱夏の頭を優しく撫で、葵は不思議そうに首を傾げる。

「どういうつもりも。言ったとおりだよ。あの者は、僕を殺して君を奪おうとした。あの者が、僕を昏倒させたのも、君を攫ったのも事実だろう? ・・・・・・朱夏、無事で良かった」

頭を撫でる手も、朱夏を気遣う声も、この上なく優しいのに、朱夏は背筋に悪寒が走った。
止まったはずの震えが、また身体を襲う。

「朱夏様。よくぞ、ご無事で・・・・・・」

聞き慣れた声に目を向ければ、桂枝が心底安心したような表情で、微笑んでいる。
桂枝からしたら、他の誰よりも、朱夏の傍に葵がいるこの状況は、何より安心できる状況なのだろう。

だが朱夏は、目の前の葵から逃れるように、桂枝に手を差し伸べた。

「あらあら、まぁ・・・・・・。よっぽど怖かったんですわね」

葵ではなく、自分に手を差し伸べる朱夏に、少し戸惑ったようだが、桂枝は優しく朱夏の手を取り、その身体を支えてやった。

「罪人は、裁可が下るまで、地下牢にて厳重に監禁しておくように。父上、その他の主な大臣などには、明日私から説明する」

葵はそう皆に言い置くと、桂枝に寄りかかる朱夏を、冷ややかとも取れる目で見、踵を返して去っていった。
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