楽園の炎
「良かった。兵士たちも、そう無体なことはしないとは思ってるんだけど、どうしても心配で。ごめんね、ユウは助けてくれたのに。ねぇ、どうしてあのとき、否定しなかったの? 全然抵抗も、しなかったじゃない」

牢に顔を近づけて言う朱夏に、ユウは相変わらず落ち着いて、いつものように、にこりと笑いかけた。

「否定も何も。兵士が言ったことは、まぁ事実だったからな。俺が葵王を気絶させたのも事実だし、朱夏を連れ出したのだって、傍(はた)から見りゃ誘拐だ。大人しくお縄についたのも、あそこで暴れても、騒ぎが大きくなるだけだったし、下手に動くと、朱夏に迷惑がかかるかもしれんかったしな」

「そんな・・・・・・。あたしのことよりも、自分のこと、考えてよ。葵は、ユウの容疑を自分の暗殺未遂として扱うつもりよ。そんなことになったら、最悪死罪になっちゃうよ?」

半泣きになってしまった朱夏に、ユウは困ったように笑って、牢の中から手を出し、朱夏の頭を撫でた。

「朱夏は泣き虫なんだなぁ。折角助けたのに、そんなに泣くなよ」

朱夏は驚いた。
葵のことは、散々泣き虫と言ってきたが、自分が言われたのは初めてだ。

「泣き虫じゃないもん」

慌てて手の甲で、ぐい、と目を擦る朱夏に、ユウは笑った。
そして、ふと思いついたように言う。

「そういえば、よくここまで入って来られたね。ここは、地下牢でも最奥だろ? 門番も当然いるし、地下牢なんて、小さい入り口一つしかないじゃないか」
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