あの頃の夢
病室
目が覚めたとき、
冷房を止められた病室には
まだ蒸し暑い夜が続いていた。

もう9月も半ばだというのに、
季節は相変わらず
夏の面影を留めている。

時計を見ると、
蛍光塗料の淡い光が
綺麗な直角を描いていた。

夜中の三時だ。

昼寝のせいか、
ずいぶんとおかしな時間に
目が覚めてしまったらしい。

入院中なのだから、
いつ寝ようが誰からも
叱られることはないのだけれど、
ぼくの体内時計の感覚は、
もうすでに壊れてしまっているような気がした。

退屈なときには、
どんな時間帯でもすぐに
眠ることができた。

たぶん、
どれだけ眠っても
癒されることなんてないのだろう。

真夜中の病室は静まり返っていて、
その空間がなぜか妙に心地良い。

隣のベッドにも
患者さんが寝ているはずなのに、
寝息の一つさえも聴こえてこない。

たまに病室の前を
横切っていく看護師の白い服が、
扉の磨ガラスにぼやけて
幽霊みたいに見えた。

もし世間から
人間がいなくなってしまえば、
世界はこんなにも静かなのだろうか。

それは、
何の悩みもない
安息の楽園だろうか。

今の感覚のほうが、
夢の中にいるようだった。

というよりも、
夢の中の感覚が
あまりにもリアルなのだ。
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