独身マン
「おはようございま~す」



正義はなんとなくそっけない態度で事務所へ入った。



「おはようございます」



返事なんて側にいた人が通りすがりに答えるだけ。



無言のまま正義は席に座った。



「春ちゃんとさえちゃん旅行にいってきたの~??」



ぶりっ子主婦の由美が朝から甲高い声で春海に声をかけていた。 春海がお土産に買ってきたお菓子をみんなに配っている。



正義は気になるけどずっとうつむいて仕事をしている“ふり”をした。



(関係ない。 関係ない。 俺には何も関係ない)



「はい。 大仏まんじゅうです」


「おぉ~! おいしそう!」



ついに春海は美紀子の所まできた。 正義は目の前にいる彼女に冷や汗がじと~とわき出てくる。 だけど気づいていない“ふり”をしつづける。



「誰といってきたの?」


「さえちゃんです」


「いいないいなぁ~」



心臓がドキドキと高速でうごいている。 バックンバックン、ぐっと胸あたりが苦しくなる。 



(あ~、くるか~くるか~! くるならこい こんチクショー!)



この調子で行けば話し掛けられるのが分かっているが、待ち構えたり、自らつっこんでいく勇気もない。 いかにも“自分は気がついていません”というそぶりで仕事をしつづける。
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