母から逃げた日
第一章 母から逃げた日

それは無だった



『カアサン ゴメン アイシテル ダカラ、サヨウナラ』


あたしは履き慣れた黒のロングブーツに足をいれた


あたしの背中をひどく睨む女は『死ね』と狂った声で叫び続ける


『マタ カエッテクルカラ サヨウナラ』


あたしはひどく冷たい顔をしているのだろうか

わからない

もしかすると穏やかな顔をしているかもしれない


この女から解放されるから…


『あんたなんか生まなきゃ良かった 死ねよ』


女の顔は歪んでいた
醜い顔をしている


せっかく年のわりには綺麗なのにもったいないと思う
可哀想な女だ


『ゴメン ダカラ、キエルネ』


あたしの声は淡々として感情がない
きっと表情だってないのかもしれない


可哀想な女はどんどん醜い顔になる


『今までの金返せ お前にかけた金』


本当に可哀想な女

あたしは持っていた鞄から銀行の袋を取り出した

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