ジュリアン・ドール
「お帰りなさいませ。まだお休みにはなられないのですか?ミスタージョウ」


ジョウが席へ戻ってくると、ハーリーは気軽にジョウに声をかけてきた。


「・・・・・」



ジョウは、ハーリーに視線を突き刺した。



「失礼。先程、レディ・ミサが貴方様をそう呼んでおりましたので」

「あ、ああ、そうだったね。もう一杯だけ、カクテルをいただこうと思ってね」

「ウォルビア・・・ですね?」

「ああ、そうだ。それを頼む」

「貴方は昔から、それしか頼まない」


ハーリーは、クスッと笑いながら独り言をこぼしように小さな声で言った。しかし、ジョウは何気なく聞こえてきたハーリーの言葉に気を害し、鋭い目でハーリーの琥珀の眸を睨みつけた。


「おっと、気に障ったら失礼。しかし、わたくしはこの上なく嬉しいんですよ。貴方はわたくしの、かつての親友。信じてくれなくても結構ですがね」

「親友・・・・・?」


ジョウは、訝しげにハーリーの話を聞いていた。


「そう。貴方の嫌いな“前世”でのね」

「馬鹿馬鹿しい・・・!」


ジョウはハーリーから目をそらし、ハーリーを無視することにした。が、膝元に置いた手の指が、トントンと小刻みに足を叩き、彼の苛立ちを見せていた。


「馬鹿馬鹿しくても結構です。しかし、わたくしが望んでいた奇跡がついに起こってくれたのです・・・・・。かつてのわたくしの肉親にやっと出逢えたのですから。

“エルミラ-ラ”・・・・・、今はミサと言う名前だったのか。変わらぬ黒髪、可愛い妹。

貴方が今も尚妹の悪戯な呪縛に縛られているなんて、運命は君を離してくれてない。しかし貴方は心の奥底では忘れてはいないようだね。その魂の全てをかけて愛したはずの恋人“ジュリアン”のことをね」


一瞬、ジョウの耳に聞き慣れた女性の名が入ってきて、ジョウは再びハーリーを睨んだ。


ハーリーは何もなかったような表情で、もの静かに微笑みながら、目の前によく磨かれたクリスタルのカクテルグラスを置いた。そしてゆっくりと、グラスに透明感のある美しい碧色のカクテルを注ぎ込む。


「貴方はいつもこれを飲んでいた。ベルシナの、美しい姫君の眸の色と同じ色の、このカクテルを・・・・・」
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