未熟な天使 *恋と心理学と彼とわたし*
レポート作成のためにズル帰りするなんて提案、あっさり受け入れてここにいる。
今日のあたし、ちょっとどうかしてるかな?
なんとなくそんなことを思う。
それにしても辻之内は、なんて言い訳をして出てきたんだろう。
「ねぇ辻之内、どうやって早退してきたの?」
疑問に思って訊いたら、何故かくすっと笑われた。
そして、天を仰ぐように頭上の青空を見上げた辻之内。数秒の後、視線がこっちへ向いて目が合う。
「簡単なことだよ」
ぽつりと呟くみたいに言った顔は、さっきの笑顔とは全然違う表情をしてて。
真剣な眼差しにあたしの心臓がドキリと鳴って、続けて放たれた言葉にとても冷静には対応できなかった。
「雉本にこう言ったんだ。
『時田 湊を拉致したいから帰っていいですか?』って」
そんなの冗談にきまってるのに。
ただの冗談なんだから、なに言ってんの?って返せばいいのに。
だけどあたしは、無言のまま。そして恐らく目を丸くして瞬きもせず、それから確実に頬を真っ赤に染めてその場に立ち尽くしてしまった。