遠い坂道


 息が上がった。



 松羽城学園高校は、坂道の真ん中に建っている。毎日登る側からすると、億劫以外の何物でもない。



 車通勤やバス通勤の先生方が、汗ばみながら坂道をのぼる私を尻目に悠々と通り過ぎていく。


 私も彼らと同じように、最寄駅からバスを使うことを考えたことはあった。しかし、交通費がかさむため断念したのだ。




 ソメイヨシノが歩道と車道の境目に整然と並んでいる。

 緑が多い点に関しては、結構気に入っていたりする。……この坂道さえなければ完璧だ。


 坂道には私の家近くにあるようなお洒落なカフェや雑貨屋があった。

 下校途中に寄り道する生徒も少なくない。


「あ、真琴センセーだ!」


「先生、おはよー」


「おはようございまーす」


「おはよう」


 顔見知りの生徒達が満面の笑みで手を振ってくる。

 彼女達は髪を染めており、化粧も派手。
 しかし、その外見からは想像出来ないかもしれないが、とても素直で思いやりのある生徒達である。


 私が新人としてこの高校へ赴任した当初も、真っ先に声をかけてくれた。


「もう一年経つのに、まだ坂道つらいの?」


「うん……」


「ほらほら、頑張って。もうすぐ着くよ」


 そう言って、女子生徒達が背中を押してくれる。


「あ、ありがとう」


 礼を述べれば、彼女達は顔を見合わせて悪戯っぽい笑みを浮かべた。


「そのかわり、校門の前に生徒指導部の奴らが立ってたら庇ってね!」


「ええっ?」


 素っ頓狂な私の声に、少女達は弾けるような笑い声を上げた。


 結局……交換条件を突きつけられた私は、校門に仁王立ちしていた生徒指導部の小倉先生に頭を下げて、彼女達には自分からきつく指導するので多めに見てやってほしいと頼み込む羽目になった。


 朝練があるからと少女達は部室のあるグラウンドへ駆けて行った。




 ……全く、ちゃっかりしている。しかし、裏がないため憎めない。



 私は伸びをし、気合いを入れた。



 今日から授業が始まる。
 一限目から、二年七組の古典の授業が予定に入っていたはずだ。


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