遠い坂道

 かれこれ、一人暮らしを始めて七年目になるが、彼氏が出来ても、私は決して部屋に上げない。


 何故、自分の領域(テリトリー)へ他人が侵入してくるのをみすみす許さなければならないのだ。


 何かと理由をつけて断ることさえ億劫で。告白されたらNOと言えない自分が嫌になる。



 別に相手が嫌いなわけじゃない。ただ、心の底から好きだと思える恋愛を経験したことがないだけだ。



 今の彼氏にも、メールや電話も自主的にしたことがない。友美子いわく、私は淡白を通り越して、無頓着らしい。


「そんな投げやりだから、変な男がつけ込んでくるんだよ。自分に都合が良い奴だって」


「いいの。折り合いつけて付き合ってるから」


 カラリと氷を回しながら笑って見せる。ふと、視線が冷える。


「私の邪魔しなきゃ、それでいい」


「……そんな恋愛、寂しくない?」


「ぜーんぜん」


 私は軽い口調で言った。


「慣れてるから」



 嘘。




 本当は、少しだけ友美子が羨ましい。



 彼女はいつも体当たりで恋愛をしている。全力投球で相手へ剛球を投げている。男の方も友美子みたいに可愛らしい女の子が一生懸命自分を好きだと言うのだから、たまらないだろう。



 恋愛とは、そんなに良いものなのだろうか。

 
 私にはわからない。





 相手を思って泣いたり、苦しんだり、悲しんだり、喜んだり。好きになってほしいあまり、自分自身を偽ったり、飾ったり。







 とにかく、面倒くさい。





 私には今の彼氏でちょうどいい。ふと気が向いた時に会って喋る。それぐらいで、別にいい。





 そう、自分に言い聞かせる。







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