遠い坂道


 一刀両断した私を、友美子は不思議そうな眼差しで見つめる。


「あんたさあ」


「ん?」


「どうして教師になったの?」


「……いきなりだね……」


「んー。ちょっと気になったからさ」


 友美子はオレンジティーをストローで突きながら笑った。


「さあ……どうしてだったかな。目指し始めたのは中学の時だった気がするけど……理由、ねえ……」


「覚えてないの? 駄目じゃん。あ、そう言えば――」


 そう言いつつ、友美子は鮮やかに話題を変えた。彼女のこういうところはありがたいと思う。



 友美子は私から、無理矢理話を引き出したりしない。絶妙なバランスで距離を保ってくれている。



 話題は高校のかっこいい教師や生徒の話に移ろった。


 そして、話題は何故か、私の彼氏のことに及んだ。


「もういい加減、見切り付けて別れた方がいいんじゃん?」


 また言い出した。


 私はうんざりした顔を隠しもせずに友美子へ向けた。



 おいおい。あの男と会うきっかけを作った合コン主催者が何を言うか。


 そもそもの元凶は、爛々とした目で強烈な発言を繰り出す。


「任せといて! 私が真琴につり合う良い男を紹介してあげるから、寂しい想いなんかしないで済むからさっ」

 要は合コン。

 彼女は私のためという名目上でそれを開き、結婚するに足る彼氏をゲットするつもりなのだ。一人で息巻く友美子を一瞥し、私は片目を瞑った。


「いいよ。新しい恋愛なんて、めんどくさいもん」


「あー……また始まった。その怠惰なセリフ」


 声を低めて友美子は眉を顰める。彼女は私の恋愛観をよく思っていない。

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