ダルターニの長い一日
いつの間にか、うたた寝していたハーリーの眠りを現実に引き戻したのは、陽が去ってゆく時刻を知らせる鐘の音の響きだった。


それはそれは素晴らしい目覚めのようにハーリーは飛び起きて、体中に着いている草を慌てて払っている。



「“陽の去の刻”シュレイツが来る時間だ!正門の近くでシュレイツの馬車が来るのを待っているんだ」



ハーリーは、エルミラーラの姿を気にしながら正門の方へ駆けて行った。



「あら、ハーリー王子」


ギクーッ!


声をかけてきたのは、エルミラーラの侍女のアンナだった。



「先程、姫様が王子をお捜ししてましたよ」



アンナは、ハーリーに気安く声をかけてきた。彼女はシュレイツの実の妹に当たる人柄の良い娘だ。



「あ、いいんだよ。エルから逃げてる途中なんだ」

「まあ、そうだったのですか」

「ああ、これからシュレイツを出迎えに行こうと思って!」

「それは、シュレイツ兄さんがお喜びになるわ、きっと」

「じゃ!」



ハーリーは急いでその場を駆け出すが、何かを思いついたように一瞬止まり、言葉をつけ加えた。



「・・・・・っと、そうそう。僕の居場所はエルには言わないでくれる?夕食前までに見つかったらピアノを弾かされるから」

「クスッ・・・・・・分かったわ」



アンナがそう応えた時には、遠くから馬の蹄の音が聞こえて来ているのを、ハーリーは敏感に耳に受け止め、正門へと走り出していた。

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