マスカラぱんだ


**葵**


え?何を言っている?

君が突然、言い出した話が僕にはよく理解出来なかった。

だって僕は別に、瞳さんを好きじゃないし。

結婚話を断った理由は、やっぱり君が好きな気持ちを抑え切れなかったからで。

それより、なんで君が僕に『紫乃』って、呼ばれたいんだ?

僕はいつだって、君を名前で呼びたいのを我慢していたくらいなのに。

それに今日だって碧が君を『紫乃』って、呼びつけにするのが気に入らなかった。

我慢していたのは、僕の方だ!

ひとりで自問自答を繰り返していると、君はいきなりソファから立ち上がり、ドアに向かって走り出す。

どこに行く?

このまま、君を帰せる訳ないだろう?


「待つんだ!帰さないよ!」


僕は君の白い手首を掴むと、そのまま胸の中に抱き寄せた。

抵抗されようが構わないと思った。

ただ、僕は君を離したくない・・・。


< 135 / 258 >

この作品をシェア

pagetop