Frist time



宏はその日の出来事をゆっくりと話し出した。


「大会の朝から俺は梨華のこと見つけてたんだ。
・・・見つけたっていうか、探してた。梨華の高校のテントをまず探してさ、それからそのテントの方ばっかり見ちゃって。

ほんと、自分馬鹿だなーって思ったよ。」


「・・・うん、ほんとバカ。」


「うるさい、分かってるから。

んで自分のレースの時、ふとスタンドを見上げてみたんだ。
・・・そしたら梨華がいてさ。

だから俺、かっこいいとこ見せようとしてさ、頑張っちゃったよ。
そのおかげか、なんか結果良くてさ。
思わず可笑しくて笑っちまった。」


宏は長距離を専門にしているんだけど、本当に速くてかっこいい。俺はスポーツテストの1000mであのフォームと速さに見惚れた。
中学時代は全国大会にも出場した経験があるくらいの実力者らしく、本当はもっと強いところからも声がかかっていたはずなのになんでうちの高校に来たのか聞いたことがある。そしたら「家から近いもん」って。こいつは凄いくせにこういう気取ってないところが最高にいいんだよな。



「んで、大会の終わりくらいに梨華の後ろ姿見つけてさ。
・・・体が勝手に動いてたよ。気づいたら梨華に声かけてた。


切り替えるつもりでいたのに、ほんと俺馬鹿だよなー・・・」



そう言って宏は自嘲気味に笑い、頭を垂れた。


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