短編‡よこたわるくうき。


げふげふ。

咳をすると、のどが切れてしまいそうだ。

ひえぴたをおでこに貼り付けながら、アキラは枕元で耳障りな音を立てるケータイに手を伸ばした。

会社は休んだ。


“夏風邪は、なんとかが引くって言うけどな”
「うるさいなぁ……もー秋だよ。9月に入ってる」


ケータイの向こうから聞こえてきたのは、からかい混じりの友人の声だった。


“ああ、なんと残暑の厳しいことか。本日も真夏日だ”
「はいはい。そーですねぇ……」


反撃の言葉も出なくて、アキラはベッドにぐったりとうつ伏せた。
変化を感じ取った友人は、少しだけ気遣わしげな声を上げる。


“おいおい、けっこうダルそうだな。大丈夫か?”
「だいじょーぶじゃない。死ぬかも」
“それだけ軽口叩けりゃしばらくは死なねぇな”
「いやいや、マジで死にますって。いまだかつてこんなダルかったことないもん」
“はいはい。じゃあ、今日の帰りに寄ってやるよ。なんか欲しいもんあるか?”
「…………ナタデココヨーグルトと飲み物」
“わかった。じゃあな”


通話が切れて、ちょっとだけ寂しくなった。

病気になって心細くなるなんて、今までなかったことだ。


アキラはちょっとだけ顔をあげて、窓を見た。


いい天気。


洗濯物もすぐに乾きそう。



さっきも思った。

だから、洗濯機がごうんごうんと音を立てている。





ごうんごうんごうんにゃあ。




ごうんにゃあごうんごうんにゃあ。

< 11 / 20 >

この作品をシェア

pagetop