男装人生
「怜悧…キミだよね?…フフフ」
気持ちを落ち着かせ、スクッと立ち上がる。
鈴音の不安げな顔が視界の端に見えたが、見返すことなく前へ進む。
踏み出す足は鉛のように重い。
そういえば私は入学してから追われてばかりだ。
まだ、2週間くらいしか経ってないのに幾度もピンチを乗り越えてきたような気がする。
希夜との対決は2度目だ。
今回は偶然、藤原さんが居て助けてくれたりなんてしない。
もちろん、架衣斗も光もいない。
今、助けてくれる人はいないんだ。
「やっぱりね。」
あっという間に希夜の正面にたどり着いてしまう。
薄気味悪い笑みが消えた、冷たい瞳の希夜。
「キミが寮にいないから探したよ。」
私の胸元のシャツをつかみ、ぐっと引き寄せる。
息もかかりそうな距離と、緊迫した空気。
一時の我慢もできず、声を発してしまう。
「ち、ちょっと夜風に当たってただけだし。ハハハ・・・」
一瞬にしてその場の気温がぐんと下がったような気がする。
これが、空気が凍るというのか・・・
身をもって体験してしまった。
「さ、最近の健康法で夜風に当たると、いッ、いいって言ってたんだ‼そ、そうそう‼今の時間帯が一番いいらし・・・」
恐怖と緊張のせいかべらべらと余計な事をしゃべってしまう。
もう少しましな事は言えなかったのか・・・
希夜はへらへらとした私の態度にイラついたのか、力任せに壁際に追いやった。
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