モンパルナスで一服を
「その絵、僕に売ってくれませんか?」
思わぬ一言で彼女は次の言葉に詰まる。しばらく二人の間に沈黙が流れた。
青年はポケットからシワくちゃなお札の束を綺麗に伸ばすと、彼女の前に差し出す。
青年が持てる限りの財産だった。
突然のことに戸惑ったものの、彼女は喜んでお札の束を受け取る。
墓前の小さな商売だった。
青年が世界でたった一人の買い手であろうとも、自分を認めてくれた人が居ることは確か。これが、その芸術家の一生だ。
絵を譲り終えた彼女は、左脇に置いたカバンの中から煙草の箱を取り出す。
不慣れな手つきで一本摘むと、逆の手でポケットからライターを取り出し、煙草に火を灯した。
煙草の先から煙が立つ。
彼女は吸うわけでもなく、それをそっと墓に添えた。
墓のすぐ下で煙草は煙を上げる。
吹いた風にのまれた煙もすぐ姿を消した。
思わぬ一言で彼女は次の言葉に詰まる。しばらく二人の間に沈黙が流れた。
青年はポケットからシワくちゃなお札の束を綺麗に伸ばすと、彼女の前に差し出す。
青年が持てる限りの財産だった。
突然のことに戸惑ったものの、彼女は喜んでお札の束を受け取る。
墓前の小さな商売だった。
青年が世界でたった一人の買い手であろうとも、自分を認めてくれた人が居ることは確か。これが、その芸術家の一生だ。
絵を譲り終えた彼女は、左脇に置いたカバンの中から煙草の箱を取り出す。
不慣れな手つきで一本摘むと、逆の手でポケットからライターを取り出し、煙草に火を灯した。
煙草の先から煙が立つ。
彼女は吸うわけでもなく、それをそっと墓に添えた。
墓のすぐ下で煙草は煙を上げる。
吹いた風にのまれた煙もすぐ姿を消した。