メシア
転落

事故

 キーーー!!ガシャ!!

 その音とともに、体が宙を舞う。
頭が真っ白になり、ただ死んだと、冷静に心がつぶやく。


 「瞬助、瞬助」
その呼び声が、私の意識をもどす。
目を開き、あたりを見回すと、母と父がこちらを心配そうにみている。
 「病院」
そう私はつぶやき、状況を理解した。トラックにはねられ、病院に運ばれたのだ。
生きていると頭で理解し、起き上がろうとすると激痛が体を襲った。

「骨が少し折れてるから、まだ動けないけど、目をあけてくれて良かった。」

 母が、瞳に涙を浮かべながらつぶやいた。
 父も、母の横で安心した顔をしている。

「君は、両足とあばらなど、全身を骨折している。本当に奇跡だよ。しばらくは安静が必要だ。まだ、気は抜けないからね」

 白衣を着た病院の先生が語りかけてきた。
 
 その後、先生は体を少し検査すると病室を後にした。




 何時間かの時間がすぎ、頭に一筋の不安がよぎる。

「母さん、次の試合に間に合うかな。」

母は、少し話しにくそうに
「いまは、体を治すことに専念して、次の試合はあきらめなさい」
と、私に言った。

その瞬間、心が熱くなった。
「そんな!!!次の試合は全国大会、オリンピックへの道なんだ。簡単にあきらめられるか!!!」

思わず怒鳴っていた。場違いな怒りはわかる。ただ、ずっとボクシングをやっていて、こんなことで、夢への最短距離を失いたくなかったのだ。


私の夢・・・


       オリンピック

それを、失いたくなかった。
もう、手が届くところまで来ているのに・・

「ごめんなさい」

母が、私の叫びの後、しばらくの沈黙を破りつぶやく。

母が謝ったのは、本当にどうする事も出来ず、自分が何もできない事を謝ったのだと理解した。

 理解はしても、辛かった。言葉の代わりに涙がほほをつたい、止めることが出来なかった。


 
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